殴られ屋・アキラ

殴られ屋・アキラ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

僕は、東京に行くと必ず寄るところがある。
それは、新宿歌舞伎町の中にある、新宿コマ劇場前の広場。

理由は2つある。

1つは、その近くにあるそば屋に、僕が大好きな定食があって
夜な夜な食べに行ってしまう。

それは、三色定食といって、焼きそばと天ぷらそばとかしわ飯のセットで
430円という僕のお気に入りなのだ。

美味しいとか美味しくないとかいう問題ではなく、妙な満足感がある。

それから、もう1つ。
新宿コマ劇場前の広場に1段高くなったステージのようになところがある。


そこには、ギターを持って歌っている人。
ラッパを吹きながら背中にドラムをしょって、足でそのドラムを叩いている
大道芸人のような人。
ペットボトルを並べて、それをスティックで叩いて音楽を演奏している人。

いろんな人がいろんな事をしている。
そして、その周りには、若者達が自然と集まってくる。
僕は、その雰囲気が好きで、2時間ぐらいそのあたりを漂うのである。


ある日、夜中の2時頃、その場所に行ってみた。

そこには、妙な看板が出ていた。
「日本版ストリートファイター1分間殴り邦題 ¥1000・殴られ屋」

ルールはキックボクシングと同じで
お互いが少し大きめのグローブを付けて
とにかく、1分間、戦うのである。

その殴られ役の人は、リングネームを「ハレルヤ・アキラ」と言い
たぶん、昔、ボクシングかなんかをやっていたのだろう。

アキラは、パンチやキックなどの攻撃を一切せず、フットワークだけで
相手の攻撃を巧みにかわす。

通常のキックボクシングのルールでは、3分間戦うのだが
普通の人は3分間戦い続けられない。

だから「1分間殴り放題」なのだそうだ。

1,000円を渡すと、レフェリー係りの人が構え方やしていけないことなど
ルールを説明してくれる。

そして「ファイト!」という声で、戦いが始まる。

もう、周りで見ている人も100人を超えて、すごい状態だ。
そのステージ中央の戦いを、集まった人みんなが観戦していて
熱気ムンムンなのである。

僕は、その戦っている様子や、周りで見ているいろいろな人を
面白いなぁと思って、1時間ぐらい見ていた。


話を聞いてみると、アキラはたくさんの借金をかかえた会社社長で
その借金を返済するために、夜、こんなアルバイトをしているのだという。

その日は「今日は100人やらなきゃならない。」と話していた。

僕は、最初は見ているだけだったが
アキラの借金返済に協力したくなった。

また、この状態に参加してみたくなり、やってみることにした。

僕は、手にボクシンググローブをはめて
ステージの中央でアキラと向かい合った。

レフェリー役の人がルールを説明した後
アキラは、周りにいる人達に向かって、大声で僕の紹介をした。
そして、戦いが始まったのである。

実際にやってみると、見ていたのとは大違い。
僕には、1分間がすごく長く感じられた。

そして、30秒も経たないうちに、足は動かなくなり
手は下がってきてしまい、ヘロヘロになった。

1分経って「ストップ!」と言われると、僕はそこに座り込んでしまった。
顔を上げてみると、アキラは、もう、次の人と始めようとしていた。

そこには、NHKの取材が来ていたし、カメラマンも何人か来ていた。
スタッフの人に聞いたら、もう1年間も、これをやってきているらしい。


僕は、1回戦を終えて、しばらくその場所にいた。
さっきまでのただ見ていたのと違い、1度経験した後では違った目で見る
ことができる。
参加してみるのはやっぱりいいなぁと、実感した。

歩いていると、知らない人から
「さっきのファイト、よかったですよ!」と言われた。
僕は、ますます、面白いなと思った。


僕は、もう1回やろうと思った。
スタッフの人に、どうすればもっとパンチを当てることができるのかを聞き
20分ぐらいアドバイスを受けて、2回目の挑戦をした。

今度は、カメラマンが撮影してくれたりして
戦いが終わったときには、観客から拍手がわき上がった。

後で聞いたら、アキラは、元世界チャンピオンのガッツ石松と
ボディガードの会社を作ろうとしているらしく
その訓練も兼ねてこの殴られ屋をやっているらしい。
ここ新宿では、かなり有名なのだそうだ。


結局、僕は、そこに2時間いた。
いつもは、見ているだけなんだけど、今回は自分も参加して
見ていることと、実際にやってみることは、こんなにも違うんだ
ということを改めて感じた。

久々に戦うということをやったおかげで、自分の中の野性的なところや
攻撃的な部分を、ストレートにぶつけることができてすごく楽しかった。

僕は、その場所に何か新しいことがあるのではないかと思って
いつも新宿コマ劇場前の広場に行くのだが
今回は、参加することができて、戦っている間は
まるで、自分が大道芸人になったような気分を味わうことができた。


戦いが終わって拍手をもらったとき
ステージの上に上がるのは、なにかいいなと思った。

そして、いつも来るこの場所がもっと好きになった。


===========================================================
覚田義明コラムについて
このコラムは、僕(覚田義明)が1999年、34才の時に書いたモノです。
会社を設立して4年目の行き詰まった時、その時の自分の思いをまとめて
おこうと思い書いていました。
友人達に毎朝送っていたメールマガジン「ふくおかTODAY」に掲載して
いた「コラム」で、僕の考え方や物の見方、また様々なものに対しての感想を
書いています。
毎週1本のペースで書いていき、全部で64本になっていました。
それらを、今回2011年に少し修正して記載しています。
============================================================

このページの先頭へ